Yoshizen's Blog

釈尊のためらい―ーー梵天の勧請

仏伝によると釈尊は菩提樹の下で悟りを開かれた後も、その叡智を他の人に伝える事をため らわれたとか。何故ならその真実はあまりにも深遠すぎて伝え難く、かつ人にとって理解し難いものであったからと伝えられています。で、伝説によればそれを知った梵天(バラモン教の最高神ブラーマン)は、これは人類にとっての大損失と憂い、釈尊の元に参じるや是非とも教えを説いて欲しいと懇願したとか云々。

釈尊の初期の教えは先ず四聖諦、次に縁起の考えであったとされているのですが、それでは、と改めて考察してみると、明析な真実を指摘した四聖諦や極めて論理的な縁起思想の中に伝え難い複雑な真理が隠されていたとは考えられない。むしろここには、かの自我無我の問題が在ったと考える方が妥当ではないかと見えますが。

そもそもバラモン教、べーダ思想の根幹である霊魂の不滅に対して発想された無我の思想が

釈尊の悟りにおいて、その核心として確立されていなかったとは考え難い。(見ている当人=主体が無いなら、無い主体が見た対象が存在するのも確かでは無いと、後の空観の根底を成す)般若心経に書かれているような、はるか後年になってから弟子に加わった舎利子に対って、たかが菩薩如きが無我を大発見したなどと説教する話は全くの荒唐無稽)しかし、自我の問題ばかりは説明しようの無い難問が付いて回るのです。自我あるいは、霊魂は無いと言えるのは、その概念が在るからこそ成り立つので、それが初めから存在しなかったら発想すら出来ない。ちょうど色盲の人には色について説明しようが無いのと同じです。ーーーで、真に自我が無いならそれについて説明できる筈も無いし、そのふりをしながら言葉で説明するなどひどい欺瞞でしかない。伝え難く、理解し難い重要問題とは将にこの自我無我の難問であったに違い有ません。(だからこそ、それが憶測を呼び後の空観へと拡大発展していく事になった)

ーーーしかし、この壁をのり越えるのには別に梵天の登場を待つ必要は無かった、と言うよりそもそも言葉で説明する必要は無かったのです。要するに何かをやらせて見れば良い。人が何かをやる時、別に自我は必要ない。歩く目的やその損得を考えるなどと言うのはわざわざ考えた時に思い付く事であって、歩いている最中には何も考えていない。つまりそれをやっている本人がそれに気がつきさえすれば良いのです。(とは言うものの仲々気付けないもので、言葉の上で自我は存在しないなどと理解しても自分が無意識で歩いている事は自覚できない。(たった今、この文章を読んでいるのがあなた自身であることは自覚していなかったでしょう?)なにしろそれを自覚する自我が無い事が要点なのだからややこしい。いまわの際の

釈尊が「人の言葉を信じるな。自分で学ベ」と言い残したのはきわめて象徴的だったと言えますーーーーーあるいは何かのたとえ話しで解らせる事もできる。ここから仏教独特の行とか方便と呼ばれる教法が出てきた訳です。それらは皆、

釈尊の機知、その場の情況に即した発想から出て来たものだったのですが、言葉を介さずに無我、無私を教えるコツを掴むには梵天ではなく多少の時間が必要だった訳でしょう。しかし、臨機応変、言葉を介在させずに教えられた無我の教え(註参照)は、言葉として伝えられて書残される事もなく、当然のことながら教典にも登場して来なかった。=だからこそ以心伝心や禅の伝統が起らざるを得なかった訳です。(梵天の話を書いた仏伝の作者は、この無私無我の構造を知らなかった=つまり、仏教徒ではなく単に文章力にたけたバラモン僧であったと言う事です)

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(註)このリンクにある極めて珍らしい例外的記述はアーガマ経からの話ですが、実はここで全く自我を出す事無く無条件に追従して歩く事が教えられています。しかし、それについての説明は従弟のアナンダにすら告げられていません。(無意識に歩く事が肝心で、その理由とか説明は全く必要ない雑念である=無意識で歩ける=それはダルマが歩かせているのだから)

つまり仏教が目射すのは無私になってダルマと合―することで得られる完璧な調和です。

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